0コメント

“人生の恩人”トーレスの初取材【後編】 “神の子”がJリーグで見せた変化、取材で見せた変わらぬ紳士対応

スポンサーリンク




“人生の恩人”トーレスの初取材【前編】 夢にまで見た"神の子"がついに目の前に…




 川崎フロンターレ対サガン鳥栖。優勝を目指す川崎と残留争いを強いられる鳥栖では、やはり勢いや完成度に雲泥の差があり、試合は序盤からホームの川崎が猛攻を仕掛けるワンサイドゲームとなった。


 当然のことながら、トーレスへのマークも厳しく、なかなか思うようにプレーさせてもらえない時間が続く。しかし、Jリーグにやってきたトーレスは、これまでとは異なる姿をピッチで見せていた。


 相手の最終ラインにボールが入るとハイプレスを仕掛け、前線でボールを受けると懸命に体を張る。これまで華やかなプレーが印象的だったトーレスは、日本では献身的にハードワークする姿勢を一貫していた。


 とりわけ印象的だったのが、ポストプレーだ。GK権田修一はこの日、8本あったゴールキックのうち、6本をトーレスに蹴り込んだ。それまでの試合も、権田→トーレスのパスがチーム最多となっており、トーレスを“ターゲットマン”として起用することが、鳥栖の戦術となっていた。


 同時期にMFアンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸へと加入したが、チームはすぐさま戦術を“イニエスタシステム”へとシフトし、いかにイニエスタを快適にプレーさせるか逆算するチーム作りに切り替えていた。対する鳥栖は、従来の堅守からのロングボール戦術にトーレスを組み込む方針を固めた。スペイン両レジェンドの新たな船出は、まさしく対照的なものだった。


スポンサーリンク








 当然、トーレスも本意ではなかったはずだ。シュートを打つ機会もほとんど得られないどころか、足元にパスが巡ってくる回数も多くはない。ロングボールを相手守備陣と激しく競り合い、それを味方に拾わせる。欧州時代は、むしろそのセカンドボールを拾う立場にあり、俊足を活かした動き出しでフィニッシュまで持っていく、それこそがトーレスの武器だったが、トーレスを気持ちよくプレーさせる土台と余裕が、今季の鳥栖には微塵もなかったことが実情だ。


 この状況に、本人も不満が全くないと言えば嘘になるだろう。世界的ストライカーの新たな挑戦にしては、あまりに泥臭い。しかし、それでもトーレスは自分の与えられた仕事を全うし、怠らず、競り合い続けた。そして、強豪の川崎相手からも勝ち点1を持ち帰ってみせたのだ。


 スコアレスドローで終えた試合後、筆者は急いで記者室へと戻り、取材をするミックスゾーンへと足を運んだ。はっきり言えば、この日はトーレス以外にボイスレコーダーを向ける気は一切なかった。全ての力を、そこに注ぎ込む心持ちでいた。


 川崎と鳥栖の選手が続々と出てくる中、トーレスが登場したのは筆者がミックスゾーンで立ち尽くしてから1時間後のことだった。姿を現した瞬間、光の速さで駆け寄った筆者は、念願の最前列を確保することに成功した。


 憧れのトーレスが、目の前にいる…。正直に言えば、この時点で筆者はあまりに感銘を受けて涙しそうになっていた。しかし、ファンとして会いに来たのではない。サッカーライターとして向かい合っているのだ。筆者は、質問をぶつけることを胸に誓っていた。いくつか質疑応答が行われた中で、筆者は意を決して質問をぶつけた。


「トーレス選手はこれまでとは異なり、鳥栖ではターゲットマンの役割を担っていますが、どのような思いで臨んでいますか?」


 トーレスは、血眼になっている筆者の目をチラッと見ると、少しばかり笑みを浮かべ、「このチームでは、長いボールが来れば、僕がヘディングを競ることとでセカンドボールを拾える可能性が高くなる。それがチャンスにもつながるし、練習から取り組んでいるよ」と受け答えした。


 たった数秒のやりとりだったが、夢が叶った瞬間だった。感動で頭が真っ白になった。サッカーライターの道を歩むきっかけを与えてくれた存在に、サッカーライターとして質問をぶつけることができた。プロとしてこのような感情を持ち込むことは決して良いことではないのは百も承知だが、それでも、トーレスという選手はそれだけ筆者にとっては特別な存在だった。


 トーレスはその後も記者からの質問に応じ、時間ギリギリまで取材に対応していた。世界的スターなのだから、2,3個答えて去ってしまっても、誰も文句は言わない。それでも、トーレスは最後まで足を止めてくれた。これも、彼が皆から愛される理由であると実感した瞬間でもあった。


 鳥栖は今季、残留に成功し、来季もJ1の舞台で戦うことになる。トーレス自身も契約が2019年いっぱいまでとなっており、よほどの緊急事態がない限り、残留する見込みだ。そして、来季も再びトーレスへとボイスレコーダーを向けることをモチベーションに、筆者は日々の仕事に泥臭く取り組んでいる。



【了】



城福達也●文 text by Tatsuya Jofuku




 

この記事へのコメント